私はドイツのシュタイナー学校でオイリュトミー療法士として働いています。日々の現場では、識字障害や算数障害、不安や焦燥感、落ち着きのなさなど、さまざまな課題を抱えた子どもたちと向き合っています。こうした状態は心の緊張を生み、やがて身体にも影響を及ぼし、生きづらさへとつながることがあります。

ドイツでは2023年度から、シュタイナー学校連盟の決定により、各校にソーシャルワーカーを配置することが義務付けられました。彼らは教育や福祉の専門知識を備え、家庭や社会の背景に働きかけられる優秀な存在です。しかし、彼らが必ずしもシュタイナー教育の基盤に立った理解を持っているわけではありません。
そのため私は、辛抱強く、そして友好的に関係を築きながら、シュタイナー教育的なアプローチを説明し、互いの専門性を尊重しつつ協働するよう努めています。異なる背景を持つ同僚と対話することは容易ではありませんが、療法士としての自分自身の学びにもつながっています。
現場で感じるのは、制度が整備されたとしても「すぐに子どもの問題が解決する」わけではないということです。症状が短期間で軽くなることもあれば、長期的に見守る必要がある場合もあります。その一つひとつの変化を丁寧にとらえ、保護者や教師と共有することが、子どもを支える確かな一歩になります。
そして忘れてはならないのは、子どもの成長の中で生じるバランスの偏りを整えることは、オイリュトミー療法だけで成し得るものではないという点です。子どもを取り巻く社会全体がその営みに関わる存在です。だからこそ私は、自らの専門性を絶えず磨き続け、その上で同僚や保護者と協働することが、子どもの健やかな成長に欠かせないと考えています。

プロフィール
松永晶子 ドイツ在住オイリュトミー療法士。2000年より同国でオイリュトミー教師、自由宗教教師を務め、2022年より療法士として活動。AnthroMed、Berufsverband Heileurythmie e.V. 会員。日本オイリュトミー療法士協会準会員。
「自由の哲学」年間トレーニングプログラム日本代表