私が住んでいるのは中央ヨーロッパ、スイスのバーゼルという街です。ここはスイスですが、国境の町なので、歩いてもすぐにドイツやフランスに行けるところです。世界のアントロポゾフィー運動の中心地、ゲーテアヌムは、ここから電車で10分ほどで行ける、ドルナッハという街にあります。世界中のオイリュトミー療法の基礎となっているルドルフ・シュタイナーの「オイリュトミー療法講義」もこのドルナッハで行われました。今から100年以上も前、1921年の4月のことでした。

私自身はチューリッヒ近郊の、シュテッケンヴァイトというホームに20年ほど勤務し、ここでオイリュトミーとオイリュトミー療法を行いました。ここはチューリッヒからさらに電車で20分ほど東に行ったフェルトマイレンという街の、チューリッヒ湖を見下ろす高台の住宅地にあります。ここに住み、あるいは働いている人たちは、ルドルフ・シュタイナーの言葉を使うと、「魂の養育を必要とする」人々で、私たちと同様に、自分の魂を高めていくプロセスの中で、様々な問題を抱えています。

ここには、農場や、様々な手仕事をするアトリエや厨房などがあり、皆は、自分の能力や指向に応て、それぞれの仕事場で働いています。チューリッヒの近くにはアントロポゾフィーの考えに基づく学校がいくつかあり、そこで学んだ子どもたち、「魂の養育を必要とする子どもたち」が成人した時に過ごす生活の場所として、このホームは今から30年ほど前に創立されました。
私の仕事は、小さなグループで、芸術オイリュトミー、健康オイリュトミーを実践することと、あとは個人のレッスンで、それぞれの人が抱えている問題に対応して援助するオイリュトミー療法でした。毎月1回、アントロポゾフィーの医師の方がホームに来てくださり、朝から夕方まで話し合いや、研修をすることができ、またオイリュトミー療法についても貴重な示唆を受け取ることができたのは幸いでし
た。学校を卒業してからこのホームに来て、新たに職業生活に順応するための手助けになるようなオイリュトミー療法の練習は、ここでの仕事の一つの大きな課題でした。

浅田豊
プロフィール
東京で文学を学んだ後、ドイツとスイスでシュタイナーの治療教育を学ぶ。その後ゲーテアヌムの書店で働きながらオイリュトミーとオイリュトミー療法を学び、チューリッヒ近郊のホーム「シュテッケンヴァイト」で20年以上実践する。現在は書店に勤めながら、シュタイナーの翻訳、紹介に努める。