コラムvol.15「クモの網とネットの罠」ーあなたの感覚はどこにあるのか?ー

 私たちは、借り物の網の中で、自ら罠にかかっているのではないか。せめて「罠にかかっているのではないか?」という感覚を無くさないようにしたい。

 クモは捕食のために巣を作る。蜘蛛はどのように巣をかけるのだろう。

 まず風の力を利用して、水平の橋糸をかける。何度も往復して、橋糸を丈夫にする。次に、橋糸から下方にYの字を作るように糸を張り、Yの字の中心から外側へ放射状に糸を張る。ここまでは粘着力が無い丈夫な糸を張る。足がかりができたところで、点々と粘り気がある糸をかけ、円形のレースのような網を張る。クモ自身は、粘る糸の上は歩かず、足場として張った放射状の糸の上だけを歩く。網が完成するまでの時間は、種類にもよるが10分から2時間。命を繋ぐための網は、ほぼ毎日架け替えられる。

 蜘蛛の体と巣の大きさの対比は50〜200:1。人間を蜘蛛に例えると、触覚が体から飛び出した状態で、半径100〜200m程の網の中に座っているとも考えられる。

 クモは獲物をとらえると、獲物を動けないようにして、毒針を指す。この毒には消化酵素も含まれており、獲物の体内で蜘蛛にとっての消化が終わった頃、消化済みのエキスを吸いにいくのだそうだ。人間に例えると、胃、十二指腸、小腸の働きが体外に出ている状態である。

 さて、我々が日々使っているネットはどうだろう? 手のひらの中のスマホで、自分の足は少しも動かさずに手に入る情報。その情報の真偽を確かめもせず、検索ワードにくっついてきたものを次から次へと見る。知りたい(かも知れない)ことが綿々と送られてくる。それって、誰の、どんな状況での発言なのか、せめて最後まで追いかけてから判断したいのに、消化できないほどの速さで情報は次々と来る。加えて最近はおせっかいなAIが、人をおだてていい気にさせる。

 昔は新刊が出ると、書店まで買いに行った。逃したくない時は足を運んで予約して、心から楽しみに待ち、発売日に買いに行った。今はネットでポチッと注文する。音楽に至っては、もう物としてのCDすらない。ストリーミングで配信される。「ジャケ買い」はすでに死語なのか? 最近はそのジャケットですら、AIが作る。

 私たちが使うネットの網の橋糸は、どんな支えに架けられているのか? 他者が作った網を無意識に使うことで、自分の中の「何が」体の外に出ているのか? 自分で最初から最後まで「考える」ことを手放してはいないか? 罠はどこに仕掛けられているのか? 私が使っているはずの網に、私は捕食されていないか? 人類は大丈夫なのか?

 みなさん、クモのように自分の手足を動かしてみませんか。自然の中を散歩するのもいいでしょう。住まいを片付けたり、料理を作るのもいいでしょう。自分の感覚を総動員して、「健康オイリュトミー」をしてみる、っていかがですか? ネット上の粘る糸を見分ける手がかりが、感じられるかもしれません。また、小中学生の子どもにネット使用を制限すること、子どもがオイリュトミーをする機会があることは、未来を生き抜くための「健康な感覚」を育てます。今の時代を生きる私たちには、ネットの罠を見抜いて使える感覚が必要です。

参考文献

中田兼介著『まちぶせるクモ-網上の10秒間の攻防-』2017年 共立出版
中田兼介著『クモのイト』2019年 ミシマ社
新開孝著『クモのいと』2009年 ポプラ社
浅間茂著『クモの世界-糸をあやつる8本足の狩人』2022年 中公新書
新開孝『うまれたよ!クモ』2016年 岩崎書店

竹荒郁美
プロフィール
オイリュトメウム・エレーナ・ツッコリ・ドルナッハ卒。ドイツ、三つのアントロポゾフィークリニックにおけるオイリュトミー療法士コース終了。東北健康プロジェクト「小さないずみの会」主宰。アントロポゾフィー・コミュニティ「杜のいずみ」企画メンバー。仙台市在住。

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