この度は、ドイツで2018年に出版され、世界各国で翻訳される中、日本でも2021年に出版された「デジタル時代の子育て」(1)というメディアガイドブックの冒頭の部分を紹介し、メディアダメージについて考えてみたい。
この本の原書監修を務めた、ドイツの医学博士/小児科医、ミヒャエラ・グレックラー氏は、はじめに以下のように述べている。「コロナ危機は、デジタル化を押し進め、私たちがどれほどデジタルでのコミュニケーション手段に頼っているかを明らかにした。ただ、テクノロジーは、大人にとっては、サービスとしての側面が大きいが、分別を持ってテクノロジーを使えない子どもにとっては、大きな問題である。」
そして、以下のような警告をあげている。「人間の意識によって操作されるテクノロジーが、その人間の意識の発達に非常に強く影響を与える…これは、10代後半の若者や大人にとって、もし彼らの脳がアナログの、つまり現実の世界で健全に発達する機会を得ていれば、問題とならないが、このプロセスをまだ完了していない成長期の若者たちにとっては、別問題である」と。つまり「幼稚園や学校における早すぎるデジタル化には副作用や危険性がある。… 前頭葉の発達の障害やそれに関連する自律的な思考・制御力の障害、姿勢への影響や目の障害、共感力の低下、言語表現能力の欠落、ソーシャルネットワークへの依存や依存症の危険」についてである。さらに電磁波が神経系に及ぼす影響についても危惧している。
「スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ…などのIT界の巨匠たちが、自分の子どもには、スマートフォンなどへのアクセスを許可しなかったこと、また統計によると学者の子どもたちは、スクリーンの前にいる時間が他の子たちよりもはるかに少ないという事実についても考慮すべきである」とも述べている。
子どもや若者は、肉体的にも精神的にもアナログの世界で集中的に自身と環境を体験すべき年齢にあることを強調し、創造的な思考、共感、自律を育むには、本物の信頼に基づいた人間関係が必要であり、デジタルメディアの世界において、毎日の生活や学校生活の中でどのようにしたら子どもたちの健やかな成長を促すことができるかを示す目的で、この本は書かれている。
この本がドイツで出版された4年後の2022年12月にスウェーデンでは、それまでの教育現場でのデジタル化の推進から一転し、見直す動きが出てきている。理由として、「関係構築能力や注意力、集中力、読み書きや計算などの基礎的な能力は、アナログ環境におけるアナログ活動を通じて最もよく習得できると、科学的証拠と経験から実証されているとした。特に低学年は本に重点を置くべきであり、デジタル教材は、より年齢が上がってから使用することで、その効果が得られる」(2)と発表している。
また、オーストラリアでも16歳未満のソーシャルメデイア(SNS)利用の制限を国家として初めて、年齢に基づくSNS利用規制を昨年2025年12月に発表したことは、記憶に新しい。その理由は、「近年増加する若年層のソーシャルメディア利用を伴ういじめ、依存、心身への悪影響などのリスクを重く受け止め、オンライン被害防止と健全な発育環境の確保を目的に導入した。」(3)スローガンは、「子どもを子どもらしく」と挙げ、アンソニー・アルバニージ首相は、「この改革は子どもたちが『子ども時代』を取り戻すことを可能にする」(3)と述べている。
シュタイナー教育のオイリュトミーのクラスでは、その年齢の発達に応じて、さまざまな働きかけを行っている。例えば、幼児期のオイリュトミーでは、触覚、生命・体調を感じる感覚、運動感覚、平衡感覚を大切に、その感覚を育むことを一つのめあてとしている。そして、幼児期は、全身が感覚器官と言われ、最も繊細な時期で、覆いの形成や守られた雰囲気の中で成長を促すことに努めている。このようにアナログの世界で心身に働きかけ、四肢を動かす実体験の積み重ねで子どもの成長を育む観点から、メディアの使用は、リアルな体験から離れた受動的な体験と言えよう。大人は、心身を育む子ども時代への深刻なメディアダメージから子どもを守らなければならない。
現代文明によって、身体との関係が薄れる身体の疎外化の流れは加速している。しかしまたその中で、アナログな体験として手足を使うこと、また人と人のリアルな結びつきの大切さが再認識されるべき時代とも言え、心と身体とそして精神をつなげる身体運動芸術のオイリュトミーが寄与することはますます大きいと考える。
参考文献
- ミヒャエラ・グレックラー/村田光範監修 内村真澄翻訳『デジタル時代の子育て』イザラ書房(2021/11)
- 日本貿易振興機構(JETRO)地域・分析レポート「スウェーデンに見る社会課題解決 ~ 教育現場のデジタル化(1)」(2025/5/26)
- 日本貿易振興機構(JETRO)地域・分析レポート「オーストラリアで16歳未満のソーシャルメディア(SNS)利用を制限、事業者に「合理的措置」義務付け」(2025/12/17)

プロフィール
駒野 晃子
カナダの教員養成コースで幼児教育を学ぶ。その後、イギリスのキャンプヒルオイリュトミー学校でディプロマを取得。2010年に帰国。2011年の震災後に活動を開始。2018年英国でオイリュトミー療法士資格を取得。現在オイリュトミー療法士として、健康オイリュトミークラスやオイリュトミー療法、また帯広や伊達のフリースクール、ナーサリー、帯広や江別の土曜オイリュトミークラスを担当。札幌在住。