コラムvol.20『急に具合が悪くなる』のオススメ

映画『急に具合が悪くなる』を観た。

 その中で仏語「人間らしさ」を意味する “ユマニチュード”(Humanitude)を介護施設に取り入れようとすることが、一つの柱になっていたのが興味深かった。それは「見る」「話す」「触れる」「立つ」ことを通して、人としての尊厳と自由のあり方を問うていくことになる。それによって睡眠障害があるであろう施設長マリー=ルーとステージ4のがん患者の演出家真理が出会い、この二人の関係性が繋がり、深まっていく。

 人と人が足をほぐし合いながら身体的に触れ、その魂が触れ合う・・・なんとも美しい映画なのである。また、真理が演出する舞台はイタリアの精神疾患者を病院に閉じ込めるのではなく、社会へと解放していくプロセスを一人芝居する吾朗と、その孫で自閉症の智樹という存在が共に響き合っている。途中、私は朝靄の中でカップヌードルを共に食べたくなったり、人々が互いに足をほぐし合うシーンに釣られて自分の足を揉み揉み触れながらの3時間16分は決して長く感じず、豊かな時間が流れていた。

 そして、私は95歳の母のことを思った。彼女は介護施設で車椅子に乗り、しっかりとソックスを履き、しっかりと靴を履いている。面会時間は今でもかっきり15分間。その時私は、立つこと・歩くことにはあまり使われていないであろうそのむくみ気味の足に触れながら話をしている。すると、あっという間に面会時間は終わるのである。それは短くとも母に会える喜びと(父とはコロナの影響もあり、あまり会えずに旅立っていった)介護を担ってくださる人々への感謝を感じ・・・そして何かモヤモヤとした気持ちと共に帰ってくる。

 介護される人々の身体の安全を第一に考え、保つことは理解できる。それと共に、身体的・魂的・霊的に人間らしく生きる場としての施設が、社会が開かれていく未来を、映画の中の出来事のようにメタモルフォーゼしながら、創って行けるだろうかと・・・。

 それはユマニチュードの目指すところの「立つ」であり、オイリュトミー療法における「自我」への働きに他ならない。

関矢ひとみ
プロフィール
オイリュトミー療法士。ニューヨーク州スプリングヴァレーオイリュトミー学校でオイリュトミストのディプロマ取得。英国ペレドゥアのオイリュトミー療法コースにて療法士ディプロマ取得。療法・教育・芸術の分野で活動している

トップへ戻る