コラムvol.21「待つこと」

 映画が初めて上映された頃、農家の奥さんが映画を観に行って、終わりまでちゃんと見ていたのだけれど、目の前で何が行われているのか全く理解ができなかったそうで、憤然と映画館から出てきたそうです。

 でも、それから100年以上たって、今やそんな人は見当たらず、小さな赤ちゃんでもスマホを食いいるように見ています。現在、地球上で電磁波がない場所などほぼほぼなく、新しく生まれてくる子どもたちは、地上にやってくる際にこの電磁場の分厚い網をくぐってやってくるので、生まれる前からすでに大きな影響を受けているという考え方もあるそうです。若い世代の人たちは電子機器をいとも簡単に使いこなし、年配者でも、スマホやAIを駆使したり、リモートで繋がることは当たり前の時代になりました。

 先日、SNSで、あるお母さんの投稿が載っていました。娘さんのことでとても悩んでいて、どうしたら良いかわからないからAIに聞いてみたら、その返答が、とても心に寄り添ってくれるもので、アドバイスも的確で、大泣きに泣いてしまった、というものでした。そのAIの返答も載っていたのですが、関係のない私が読んでも泣きそうになるくらい素晴らしいものでした。

 生きていれば、さまざまな問いが生まれてきます。自分は何のために生まれてきたのだろう。自分の人生、何か満たされない気がするが、理由がわからない。どうしてあの人はあんなことをするのだろう、などなど。これらは、昔も今も変わらない問いなのではないでしょうか。

 AIは、人間が今まで途方もない時間をかけて考えてきたことの中から、つまり人智の結晶の中から、質問した人に合わせて答えを返してくれるということです。それはそれで、素晴らしいと思うのです。聞いたらすぐ答えてくれる、とても便利です。ひととき安心もするでしょう。でも、たくさんある答えの中から、AIに適切な答えを選んでもらってるのに、自分で出した答えのような気になってしまうのでは、という懸念もあります。

 オイリュトミー療法は病や困難を癒すことを目的に、医師の診断のもと、クライアントさんの内側からの声に耳を澄ませ、時間をかけて手足と心と思考を存分に動かし、自分自身を感じる時間を大切にして、その内側で何かが変容していくことで得られる答えを、ひたすら待ちます。目に見えない大きな力が働いてくれるという信頼を持って。

 そのために、クライアントさんの「私」がオイリュトミーを主体的に行うことのできる場を創ります。いわば、共同作業の場です。家族や他の療法士などたくさんの人が、一人のクライアントさんと関わることでより豊かな関わり合いができるように、というのが理想です。

 そうして、どんな答えが出てくるかはわかりません。療法を受けている間に答えが出てこないこともあります。でも、時間が経ってから、あっ!と思われることもあります。自分の中に蠢いている問いの答えに少しでも触れると、自ずと病との関係性が変わって、より自分らしい生き方ができるようになっていくように思います。自分が発見した自分の答えなので、揺るぎないものがそこにはあります。

 もう25年も前のことですが、私にも大きな悩みがあって、ある方に話を聞いてもらっていたのです。その方は「人間は、素早く白黒つけたがるんです。答えを早く出したいの。それが楽だから。でも、答えを見つけるまでの白でもなく黒でもない、灰色の時間に人間は一番成長するのですよ」と言ってくださいました。

 今でも、その方の声や表情と共に、答えがわかるまで待とうと思ったことで、腑に落ちる瞬間がやってきた時に、「これか!」と思ったことを思い出します。

 『すぐに答えを出さず、あえて立ち止まって物事の本質を見極めようとし、答えが出ない不安や葛藤から逃げないことで、質の高い理解や共感を生み出す能力のことを、ネガティブケイパビリティーというのだ』と最近知りました。まさにオイリュトミー療法でやろうとしていることではないか! と嬉しくなりました。『正解のない、変化が激しい現代(VUCAの時代)におけるビジネスや医療、教育の現場でも重要な思考法として注目を集めています』とのことです。(AIが教えてくれました)

 信じて待つことが、どんどん難しくなってきていますが、振り子が最後まで触れるとまた反対に戻ってくるということがある、ということかとも思います。

 そう考えると、オイリュトミーは世界の時流のバランサーの役割も果たしているのかもしれません。

豊田陽子
プロフィール
オイリュトミー療法士。2010年イギリスのボットン・キャンプヒル オイリュトミー学校にてオイリュトミストディプロマ取得。2022年アメリカにてオイリュトミー療法士資格取得。
関西でオイリュトミー療法士、教育オイリュトミー講師として活動中。

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